高齢化の影響により老衰で亡くなる方は増えており、高齢の家族を自宅で介護している方も少なくありません。老衰は自然な現象であり、医療技術で治療できるものではありません。とはいえ、家族が老衰で寝たきりになってしまうと心配が尽きないでしょう。
この記事では、高齢者が点滴なしでどのくらい生きられるのかを解説します。老衰の最終段階に差しかかったときの対応方法を知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
<この記事の要点>
・老衰の終末期に点滴なしの状態の場合、余命は1週間程度
・老衰の終末期には積極的に点滴を入れないほうがよい
・在宅や介護施設での看取り、自然な死を望む人の増加などにより老衰死が増えている
こんな人におすすめ
「老衰」とはどのような状態か知りたい方
老衰の終末期に点滴なしで生きられる期間を知りたい方
老衰の終末期の対処方法を知りたい方
老衰とは、加齢にともない心身の機能が少しずつ衰えていく状態のことです。高齢で体の機能が低下して亡くなり、他の死因が見当たらない場合は、自然死として「老衰」と定義されます。
老衰と判断される年齢に明確な基準はありませんが、男女ともに平均寿命を超えた場合、または90代以上で自然に亡くなった場合は、死亡診断書に「老衰」と記載されます。
2023年に厚生労働省が公表した「人口動態統計月報年計(概数)の概況」によると、老衰で亡くなる高齢者はがん(悪性新生物)、高血圧性を除く心疾患に次いで多いという結果でした。
老衰の最終段階にある方の余命は、点滴の有無によって差があります。ここからは、点滴の有無における余命の差について解説します。
とくに疾患や持病がない高齢者の場合、点滴なしの状態の余命は1週間程度です。
老衰の終末期に差しかかると、ほぼ眠って過ごすようになり、水分や食事を摂取できなくなります。水分を与えるといってもたまに唇を湿らせる程度になるので、身体全体には行き渡りません。この状態で点滴を入れることは避けたほうがよく、あえて処置や治療をせず見守ることが多いでしょう。
老衰で食事を摂れなくなり、点滴のみになった高齢者の余命は平均で2か月程度です。患者本人の体力にもよるため、長くなったり短くなったりする可能性があります。
ここでいう点滴とは「末梢静脈栄養」を指しており、手足の静脈から輸液を投与する方法です。胃腸の機能が低下している場合に用いられ、一日に1,000kcalまで投与できます。
老衰で点滴のみの高齢者の余命について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
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ご飯を食べられない点滴だけの高齢者の余命は?注意点やすべきことを解説
老衰の終末期では、苦痛を長引かせて自然死の妨げとなるという理由から、積極的に点滴を入れないほうがよいとされています。ここからは、それぞれの理由について解説します。
老衰で亡くなる場合、患者本人は周囲が想像するよりも苦しさを感じないと考えられています。
老衰の終末期にある患者の脳からは「エンドルフィン」と呼ばれる物質が分泌され、麻酔のような役割を果たしているという説があります。痛みを感じにくい状態になっているところに点滴を入れてしまうと、麻酔の効果がなくなり苦痛を与えてしまう可能性があるのです。
点滴は積極的な治療にあたるため、余命わずかと思われる場合は避けたほうがよいとされています。
老衰に限らず、亡くなる間際には身体が水分や栄養を受けつけなくなります。これは、体内の水分を処理する能力が著しく低下するからです。
この状態で点滴を入れると、むくみや肺水腫などを引き起こすリスクが高まります。肺水腫とは、肺に水が溜まりうまく呼吸ができない状態です。溺れている状態に近いため、患者を苦しめてしまいかねません。「せめて点滴だけでも」と希望する家族は多いですが、患者の負担を十分に考慮したうえで選択しましょう。
老衰は日本人の死因の上位に入っています。ここからは、近年老衰で亡くなる方が増えている理由を4つ紹介します。
厚生労働省が公表している「簡易生命表(2023年度版)」によると、男性の平均寿命は81歳、女性が87歳でした。なお、昭和22年の時点では男性が50歳、女性は53歳であったため、男女ともに平均寿命が30年以上長くなっていることが分かります。
このように、日本人の平均寿命は延びており、全体の死亡者のうち高齢者が占める割合は増加の一途をたどっています。今後も同様の傾向が続くと見られており、老衰死と判断されるケースは増えると考えられるでしょう。
かつては「直接的な死因なくして人が亡くなることはない」と考えられていました。日本人の平均寿命が現在ほど長くなかった時代では、老衰以外の死因で亡くなる方が多く、それが普通のことと受け止められていたのです。
しかし、高齢者が亡くなった際に死因と思われる疾患がないという事例が増え、医師が便宜上「老衰」と死亡診断書に記入せざるを得なくなりました。その影響により、老衰死のデータも増加したといえます。
在宅や介護施設での看取りが増加したことも、老衰死が増えた一因です。
自宅や介護施設で亡くなる場合は延命治療をせず自然に任せるケースが多く、死亡診断書には「老衰」と記載されます。最近は介護施設で臨終を迎える方が増え、それにともない老衰死の件数も増加しているのです。
病院は積極的治療を行う医療施設なので、延命治療の末病院で亡くなれば病名がつきます。亡くなる場所の違いが老衰死の増加に影響しているといえるでしょう。
老衰は治療して治るものではないので、延命治療をせず自然に最期を迎えることを希望する方も増えています。
延命治療が必ずしも最善の選択とは限らないため、本人が自然死を希望している場合は、意向に沿えるように準備をしましょう。
老衰で亡くなる直前には特徴的な症状が現れます。その後、徐々に身体を動かしにくくなり最終的にはほぼ寝たきりになるでしょう。ここからは、老衰死の直前に現れる4つの兆候を紹介します。
老衰の最終段階に進むと、以前はできていた日常の動作ができなくなります。たとえば、立ち上がる・歩く・食べ物を飲み込むなど、生活全般において家族の介護が必要になるでしょう。
老衰で体力が落ちた高齢者は寝て過ごす時間が長くなるため使わない筋肉の機能が低下します。歩かなくなると脚力が落ちやすく、家の中を移動できなくなる可能性もあるでしょう。やがて思考能力や判断力が低下し、ぼんやりと過ごすことが多くなります。
寝たきりになると全身の筋肉が衰えるだけでなく、臓器の萎縮も加わり体重が急激に減少します。年齢を重ねるにつれて体力は自然に低下しますが、老衰の最終段階だとさらに拍車がかかるのです。
また、高齢者は骨密度が低下しやすいため、骨が軽くなり体重が減少することもあります。次第に食が細くなり、体重を維持するのが難しくなります。
高齢者は胃腸の機能が低下するため、食事から栄養を吸収する際に時間がかかるようになります。水分を体内に保つ力も落ち、水やお茶を飲んでも体内でうまく取り込めなくなるのです。
飲むこと・食べることは生命維持の要であり、飲食ができなくなると体力の低下は避けられません。寝たきりの状態だと水分や食事を受けつけなくなるのは自然な現象といえます。
老衰の段階が進むと、脳の機能が低下して一日の大半を寝て過ごすようになります。これは昏睡状態に近く、食事や水分を摂れない状況が続くと徐々に衰弱していくでしょう。
最終的には眠るように息を引き取る高齢者が多く、穏やかな最期を迎える方が大半です。
高齢の家族が老衰で余命わずかと診断された場合、家族にできることは以下のとおりです。高齢の家族を介護している方は参考にしてください。
1. 最後まで会話をする
2. リラックスできる環境を整える
3. 食欲があるうちは食事の介助を行う
4. 清拭(せいしき)や口腔ケアを行う
5. 葬儀や相続の準備を始める
加齢にともない五感は衰えるものの、聴覚は最後まで残るといわれています。意思の疎通ができなくても、なるべく患者に話しかけて刺激を与えるようにしましょう。
高齢になると耳が聞こえづらくなり、さらに老衰で寝たきりの状態だと会話自体が困難になります。それでも何か反応があるかもしれないので、根気強く話しかけることを心がけてください。昔の思い出話をしたり、今までの感謝を伝えたりしてもよいかもしれません。
老衰で余命がわずかな場合、できるだけ本人がリラックスできる環境を整えてあげましょう。
老衰の最終段階に差しかかると、本人の口から「こうしたい」という希望を伝えられなくなります。そのような状況でも快適に過ごせるように、寝室に日の光を入れたり室温を調整したりすることをおすすめします。
寝たきりになると飲食に興味を示さなくなる高齢者は多いですが、なかには最期まで食欲のある方もいます。本人に食欲がある場合は、なるべく食べさせてあげましょう。
誤嚥(ごえん)防止のために液体にとろみをつけたり、やわらかい食事を用意したりすると、体力のない高齢者でも食事を楽しめます。食べることが難しければ、水やお茶で唇を潤すだけでも構いません。
清拭とは、自力で入浴できない方の身体を拭いて清潔に保つことです。皮膚を刺激することで血行がよくなる効果もあり、マッサージのような役割も兼ねます。
寝て過ごす時間が長い高齢者の場合は、歯磨きが難しくなります。歯ブラシの代替品として口腔ケア用のティッシュを使えば、洗面所に行かなくても歯磨きができるので便利です。家族だけで身の回りの世話をするのが大変な場合は、介護の専門家に相談するといいでしょう。
老衰による衰弱が著しい場合、最期が迫っていると考えられます。そのような状況になった場合は、葬儀や相続の準備を始めましょう。
家族の存命中に死後の準備をすることに対してためらいがある方は多いかもしれませんが、実際に本人が亡くなると死後の手続きに追われます。落ち着いて対応する時間がなくなるため、葬儀や相続に備えておく必要があるでしょう。
事前に葬儀プランを決める、遺言書があれば手元に用意しておくなど、できる範囲で進めてみてください。
終活の必要性を感じていても、つい先延ばしにしてしまい、なかなか実行に移せない方も多いでしょう。実際に身内が亡くなり、死後の手続きや相続手続きの経験を通じて「家族に迷惑をかけたくない」と感じるのではないでしょうか。
終活を始める時期にきまりはないので、もし関心があれば今すぐ始めてみましょう。まずは気軽にできるところから手をつけてみるとよいかもしれません。終活をすることで、老後の不安を少しでも減らせるでしょう。
老衰は、加齢により心身の機能が徐々に衰えていく状態です。日本人の平均寿命は男女ともに延びており、老衰で亡くなる方は増加しています。
老衰で点滴なしの状態では、おおむね1週間程度で亡くなる方が多いようです。点滴をするかどうかは、患者の状況を十分に考慮して決めましょう。
老後に対して不安がある方は終活を始めてはいかがでしょうか。「小さなお葬式」では、終活や葬儀に関するお問い合わせを受け付けています。お亡くなり後の手続き・直近の葬儀にお悩みの方は0120-215-618へお電話ください。
人が亡くなった後に行う死後処置と、死化粧などをまとめて「エンゼルケア」と呼びます。ホゥ。