「特定財産承継遺言」とは、2018年の民法相続法の改正により新たに登場した言葉です。この特定財産承継遺言とは何のことなのか、よくわからないという方も多いのではないでしょうか。
この記事では、特定財産承継遺言について詳しく解説します。
<この記事の要点>
・特定財産承継遺言とは、特定の財産を誰に相続させるかを指定する遺言のことを指す
・特定財産承継遺言と遺贈の最大の違いは、財産を渡す相手が違うことである
・特定財産承継遺言を作成する際は、財産を明確に特定することが重要
こんな人におすすめ
特定財産承継遺言について知りたい方
特定財産承継遺言と特定遺贈との違いを知りたい方
特定財産承継遺言を作成する際の注意点を知りたい方
特定財産承継遺言とは、遺言書の書き方の1つです。従来、「相続させる」遺言と呼んでいたものの一部が、特定財産承継遺言と定義されました。
まずは、特定財産承継遺言の基本を確認していきましょう。
特定財産承継遺言とは、遺産に属する特定の財産を、相続人の1人又は数人に承継させる遺言のことを指します。
つまり「全財産の3分の1を長男の太郎に相続させる」のように割合で相続させる書き方ではなく、「この土地を長男の太郎に相続させる」といったように、個々の財産を特定して相続させる書き方をした遺言のことです。
こうした遺言は従来、上に挙げた2つの例をひっくるめて「「相続させる」遺言」などと呼ばれていました。しかし、これらは本来性質も異なるうえ「相続させる」遺言については法律に明確な規定がなく、その性質についてしばしば問題となっていたのです。
そこで、このうち後者を「特定財産承継遺言」と呼ぶこととされ、法律上の性質についても整理がなされました。
特定財産承継遺言とは、たとえば次のようなものを指します。
遺言書
第1条 次の財産は、私の長男である 相続太郎(昭和35年1月1日生)に相続させる。
(1)土地
所在 大阪府大阪市○○1丁目
地番 1番
地目 宅地
地積 100平方メートル
(2)建物
所在 大阪府大阪市○○1丁目1番地
家屋番号 1番
種類 居宅
構造 鉄筋コンクリート造陸屋根2階建
床面積 1階 80平方メートル 2階 65平方メートル
第2条 次の財産は、私の長女である 遺産花子(昭和37年2月2日生)に相続させる。
(1)A銀行 大阪支店 口座番号0000001 の普通預金
(2)A銀行 大阪支店 口座番号0000002 の定期預金
(3)B証券会社 関西支店 口座番号1234567890 に預託する有価証券すべて
このように、個別の財産について受け取る相続人を特定していく記載方法が特定財産承継遺言です。なお、遺言の文中に「特定財産承継遺言」との文言自体は出てこないことが一般的です。
一方で、次のような記載は、特定財産承継遺言ではありません。
遺言書
第1条 私の財産のうち3分の1を私の長男である 相続太郎(昭和35年1月1日生)に相続させ、私の財産のうち3分の2を私の長女である 遺産花子(昭和37年2月2日生)に相続させる。
なお、特定財産承継遺言とその他の遺言とは明確に区分できるわけではなく、その書き方によっては特定財産承継遺言に該当するのかどうかの判断が難しい場合があります。
また、1つの遺言書の中で特定財産承継遺言としての記載とそれ以外の記載とが混在することもあります。
特定財産承継遺言の最大のメリットは、遺産分割協議を経ることなく財産の名義変更ができる点にあります。
たとえば上で挙げた特定財産承継遺言の例の遺言があった場合には、長男は土地や建物の名義を自分に変えるために、長女など他の相続人の協力を得る必要はありません。同様に、長女がA銀行の預貯金を解約したりB証券会社の有価証券を自分の口座に移したりする際に、長男の同意などは不要です。
一方で、特定財産承継遺言でない場合には、原則として遺産分割協議をしないことには名義変更などの手続きをすることはできません。たとえば上で挙げた特定財産承継遺言ではない遺言があった場合には、財産の名義変更や解約等をするにあたり、長男と長女での遺産分割協議が必要だということです。
特定財産承継遺言と似たものに、「遺贈」があります。これらの主な違いをまとめると、次のとおりです。
なお、遺贈には特定財産承継遺言のように個別の財産を指定して遺贈をする「特定遺贈」のほかに、「財産全体の3分の1を遺贈する」など包括的に指定をする「包括遺贈」も存在します。ここでは、原則として遺贈のうち「特定遺贈」を前提に解説します。
特定財産承継遺言 | 遺贈(特定遺贈) | |
渡す相手 | 相続人に限定 | 誰でも可 |
受け取り拒否の方法 | 3か月以内に相続放棄 | いつでも可 |
登記手続き | 単独で可 | 遺言執行者などの協力が必要 |
登録免許税 | 1,000分の4 | 原則1,000分の20 |
農地法上の手続き | 届出 | 許可 |
賃貸人の承諾 | 不要 | 必要 |
では、くわしく見ていきましょう。
特定財産承継遺言と遺贈の最大の違いは、財産を渡す相手です。特定財産承継遺言で財産を渡すことでできる相手は、相続人に限られます。そのため、相続人ではない人に特定財産承継遺言で財産を渡すことはできません。
一方、遺贈で財産を渡す相手には特に制限はありません。相続人に対してであっても相続人以外の人に対してであっても、遺贈をすることは可能です。ただし、特段の理由がない限りは、相続人でない相手に財産を渡す場合に「遺贈する」とすることが多く、相続人に対して「遺贈する」と書くケースは限定的かと思われます。
遺言で財産を渡す旨が書かれていたからといって、相手に財産を受け取る義務が生じるわけではありません。受け取りたくない場合には、受け取りを拒否することが可能です。
この受け取りを拒否するための方法が、特定財産承継遺言と遺贈とでは異なります。
特定財産承継遺言を拒否するためには、相続放棄をしなければなりません。相続放棄とは、家庭裁判所で申述が受理されることにより、はじめから相続人ではなかったこととされる手続きです。
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内(通常は、被相続人が亡くなってから3か月以内)にしなければなりません。相続放棄が受理されると、プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がないこととなります。
一方で、遺贈の場合にはいつでも放棄をすることが可能です。また、その方法にも特に制限はありません。ただし、「言った・言わない」でトラブルにならないためにも、通常は相続人などに対して書面で通知をすることが多いでしょう。
なお、遺贈であっても包括遺贈の場合に受け取り拒否をするためには、家庭裁判所での相続放棄が必要です。
参考:『相続の放棄の申述 裁判所』
特定財産承継遺言を使って不動産の名義変更をしようとする際には、原則としてその受取人のみで手続きをすることができます。
一方で、遺贈の場合には、受取人だけで手続きをすることはできません。遺贈で登記をするためには、遺言執行者または相続人全員の協力が必要です。
不動産の名義変更をする際には、登録免許税を支払わなければなりません。登録免許税とは、不動産の名義変更などに当たって法務局に支払う税金です。
この登録免許税は不動産の固定資産税評価額に一定の率をかけて計算されるのですが、この率が特定財産承継遺言と遺贈とでは異なります。
登録免許税の率は、それぞれ次のとおりです。
・特定財産承継遺言:1,000分の4
・遺贈:1,000分の20(ただし、相続人への遺贈は1,000分の4)
なお、不動産の固定資産税評価額は、毎年4月から6月ごろに不動産所在地の市区町村役場から送付される固定資産税の納付書に同封されている不動産の一覧表で確認ができます。
参考:『No.7191 登録免許税の税額表 国税庁』
農地は、日本の食料を守るために非常に重要な役割を担っています。そのため、農地は「農地法」という法律により、権利の移転などについて特別な制限が課されています。そしてこの制限は、特定財産承継遺言か遺贈かによって大きく異なるため注意が必要です。
まず、特定財産承継遺言で農地を承継した場合には、農業委員会に届出をするだけで構いません。
一方で、遺贈の場合には、農地を名義変更する条件として農地法上の許可を受ける必要があります。
許可を得るためには農業に従事して農地を耕作することなどの要件が必要となり、許可が得られない場合には法務局での名義変更をすることができません。そのため、仮に許可要件を満たさない場合には、たとえ遺言書で農地を遺贈すると書いたとしても、その遺贈が実現できない可能性があります。
他人の土地に建物を建てて使用しているような場合に地主の許可が必要となるかどうかも、特定財産承継遺言と遺贈とで異なります。
特定財産承継遺言の場合には、地主の許可を得る必要はありません。一方で、遺贈の場合には原則として地主の許可が必要です。
遺言書は、いずれ財産の名義変更などの手続きで使うこととなる書類です。そのため、遺言書を作成する際には、実際に手続きをする場面から逆算をして問題のないように作成する必要があります。
特定財産承継遺言で遺言を作成する際には、次の点に注意しましょう。
特定財産承継遺言の内容で遺言書を作成する際には、それぞれの財産を明確に特定しましょう。たとえば、「私の家を相続させる」との記載のみでは登記ができない可能性が高いと言えます。
このような曖昧な記載をするのではなく、たとえば土地であれば次の事項を正確に記載して特定しましょう。
・所在
・地番
・地積
・地目
建物であれば次の事項を明記します。
・所在
・家屋番号
・構造
・床面積
これらの情報はその不動産の全部事項証明書に書かれているため、全部事項証明書どおりに正確に記載しましょう。全部事項証明書は、全国どこの法務局でも取得できます。
また、預貯金であれば、次の事項を記載して特定します。
・金融機関
・支店名
・「普通預金」「定期預金」などの種別
・口座番号
特定財産承継遺言を作成する際には、財産の漏れがないように注意しましょう。記載から漏れた財産があれば、せっかく遺言書があるにも関わらず、その漏れた財産を取得する人を決めるために遺産分割協議をする必要が生じてしまうためです。
とはいえ、全ての財産を細かいものまで1つずつ記載して網羅することは現実的ではありません。そのため、遺言書に次のような一文を入れることが一般的です。
第○条 前条までに記載のない財産は、すべて私の長女である 遺産花子(昭和37年2月2日生)に相続させる。
遺言書を作成する際には遺留分にも注意を払う必要があります。遺留分とは、配偶者や子など一定の相続人に保証されている相続での最低限の取り分のことです。特定財産承継遺言は遺留分の対象となるので、注意しましょう。
遺留分を侵害したからといって、遺言書が無効になるわけではありません。しかし、相続が起きた後で遺留分を侵害された人から遺言などで財産を多く受け取った人に対して侵害された遺留分に相当する金銭を支払って欲しいと請求される可能性があります。この請求のことを、「遺留分侵害額請求」といいます。
遺留分侵害額請求がなされると、実際に侵害額相当の金銭を支払わなければなりません。特に受け取った財産が自宅不動産など簡単に売却できないものであるような場合には支払いに困ってしまう場合もあるので、遺留分を侵害した遺言書を作成する際には請求をされた際に支払いができるかどうかまで考慮したうえで作成するようにしましょう。
配偶者居住権とは、自宅の不動産を「配偶者が亡くなるまで無償で住む権利(=「配偶者居住権」)」と「自宅不動産の所有権」とに分けて相続させたり遺贈したりすることができる制度です。配偶者居住権は、2018年に改正された民法相続法により新設されました。
この配偶者居住権は、遺言書で記載することも可能です。ただし、民法の規定によりその際は「遺贈」によることとされています。
そのため、特定財産承継遺言とは異なり語尾は「相続させる」ではなく「遺贈する」と記載する必要がありますので注意しましょう。
特定財産承継遺言で不動産を受け取った場合には、できるだけ早く登記をする必要があります。なぜなら、登記をしないでいる間に他の相続人が勝手に第三者に売却してしまった場合に、不動産を取り戻すことが困難となってしまうためです。
ここは2018年に成立した改正の前後で変更があった箇所なので、改正前後を比較して確認しましょう。
従来、「相続させる」遺言により相続人が不動産を承継した場合には、登記をすることなく第三者に対抗することができるとされていました。
「相続させる」遺言の効力は遺言者が亡くなると同時に生じるからというのがその理由です。
たとえば、「相続させる」遺言により、長男が不動産を取得したとします。しかし、長男が登記手続きをせず故人名義のままとなっている間に、他の相続人である次男が勝手に自分の法定相続分だけを登記して第三者に売却してしまった場合にこの問題が生じます。
この場合、長男は第三者から不動産を取り戻すことができるとされていました。
しかし、第三者からすれば実は遺言で長男が不動産を取得していたなどとは、知る由もありません。そうであるにも関わらず、後から取り戻されてしまう可能性がありました。
こうした問題を受けて、法定相続分を超える部分については、たとえ特定財産承継遺言があったとしても登記をしない限り第三者には対抗できないこととされました。
たとえば、遺言で「長男に相続させる」とされていた不動産について次男が自分の法定相続分だけを登記して第三者に売却した場合で考えてみましょう。この場合、改正後の規定によれば、長男が登記をしていなかった以上は長男の法定相続分を超える分については、事情を知らない第三者から取り戻すことはできないこととなっています。
そのため、特定財産承継遺言で不動産を取得した場合は、すみやかに登記をする必要が生じることとなりました。
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特定財産承継遺言とは、財産を特定して相続人に「相続させる」とする遺言のことです。特定財産承継遺言で遺言書を作成する際にはいくつかの注意点があるので、後にトラブルを残すことのないようよく確認して作成することをおすすめします。
また、相続が起きたらできるだけすみやかに相続登記などの手続きをすべきである点も覚えておきましょう。
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