90歳の高齢で寝たきりになった場合、残された時間で家族にできることは何か悩む方もいるでしょう。寝たきりの状態になることは、本人だけでなく家族にとっても大きな試練です。日々の介護や医療ケア、精神的なサポートなどが求められるなかで、生活の質を維持し、家族全員が安心して過ごせる環境を作れるかが重要になります。
この記事では、90歳の人が寝たきりになった場合の余命と、その過ごし方について解説します。寝たきりになったときに家族ができることや準備しておくべきことも紹介します。
<この記事の要点>
・「寝たきり」とは6ヶ月以上病床で過ごしている状態をいい、認知症発症のリスクが高まる
・体位変換や皮膚の清潔、栄養管理により、床ずれや筋力低下を予防する
・家族は延命治療や葬儀に関する本人の意思確認、遺言書の作成を事前に行っておく
こんな人におすすめ
「寝たきり」の状態について知りたい方
90歳の人が寝たきりになった場合の余命を知りたい方
寝たきりのケアや事前に準備しておくことを知りたい方
90歳の人が寝たきりになった場合、余命は個人の健康状態や生活環境によって大きく異なります。自分の口から食事を摂ることが困難になり、経管栄養や点滴で栄養補給をおこなうようになると、余命は数週間から数ヶ月と宣告されるケースが多いでしょう。
家族は、適度な運動を促したり栄養管理をしたり、定期的な医療チェックなどをサポートすることができます。ほかにも、精神的なケアをしたり快適な生活環境を整えたりできるでしょう。
具体的な余命や療法については、医師に相談し、個々の健康状態にもとづいたアドバイスをもらいましょう。明確な余命を判断するのは難しいため、余命と向き合いながら、できる限り快適な環境作りに努めるとよいでしょう。
参考:活動的余命と生物学的余命の間-終末期の問題を含む
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具体的に寝たきりとはどのような状態をあらわすのでしょうか。ここからは、寝たきりと判断する目安や原因について解説します。
おおむね6ヶ月以上を病床で過ごしている状態をさす
厚生労働省では、「おおむね6ヶ月以上を病床で過ごす者」を「寝たきり」と定義しています。これは、ベッドの上にとどまっている状態を指すだけではなく、車椅子を利用する場合も含まれます。
寝たきりになることで生じる症状やリスクは以下のとおりです。
・筋力の低下
・床ずれ(褥瘡)
・認知症の発症
寝たきりになると、体を動かすことが減るため筋力が衰えます。また、長時間同じ体勢でいることで皮膚が圧迫されて、床ずれも発生しやすくなるでしょう。脳への刺激も減少するため、認知機能が低下して認知症発症のリスクも高まります。
これらの症状は、寝たきりの状態が続くことでさらに悪化する可能性があるため注意が必要です。適切な介護と医療ケアに取り組んでいくとよいでしょう。
参考:老年医学会雑誌第47号5号 寝たきり
寝たきりになる原因は多岐にわたりますが、主に以下の4つが挙げられます。
・筋力の低下(老衰)
・認知症
・脳の疾患
・骨粗しょう症
筋力の低下は、主に加齢や長期間の安静によって引き起こされます。不活発な生活によって自分で体を動かすのが難しくなってしまい、寝たきりの状態に陥ってしまうのが原因です。
脳卒中や脳梗塞といった脳の疾患も、後遺症によって自力で体を動かすことが難しくなってしまいます。骨粗しょう症は骨密度が低下し、骨がもろくなる病気です。とくに高齢者がなりやすく、転倒をきっかけに骨折して寝たきりになってしまうケースも少なくありません。
寝たきりは「老衰」や「終末期」と何が違うのでしょうか。ここからは、この2つの言葉との明確な違いについて詳しく解説します。
老衰は加齢にともなう身体機能の衰弱のこと
老衰とは、加齢にともなって身体機能が低下し、衰弱した状態を指します。
主な兆候は以下のとおりです。
・食事の量や体重の減少
・睡眠時間の増加
・身体機能の低下
厚生労働省の「死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」によると、「老衰」は自然死のみの場合に用いる言葉です。高齢者であり、かつほかに記載すべき死亡原因が見当たらない場合のみ老衰と診断されます。
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一方で「終末期」とは、病気からの回復が見込めず、余命わずかな時期のことです。全日本病院協会によると、以下3つの条件を満たす場合は終末期と告げられます。
1.医師が客観的な情報を基に、治療により病気の回復が期待できないと判断すること
2.患者が意識や判断力を失った場合を除き、患者・家族・医師・看護師等の関係者が納得すること
3.患者・家族・医師・看護師等の関係者が死を予測し対応を考えること
参考:厚生労働省「終末期医療に関するガイドライン」
終末期医療(ターミナルケア)では、基本的に延命治療はせず、痛みの緩和や生活の質(QOL)の維持と向上を目的としています。医療の効果が見込めないため、余命数ヶ月以内と宣告されるケースも少なくありません。終末期では残りの人生を有意義に過ごすためにさまざまなケアが施されます。
寝たきりの人は、亡くなる前にその前兆が見られるといわれています。余命としっかり向き合うためにも、どのような前兆が現れるのかを覚えておきましょう。
ここからは、亡くなる前に現れる身体的な特徴と精神的な特徴を紹介します。
亡くなる前に現れる身体的特徴には、以下のようなものが挙げられます。
・食事量や水分量が減少する
・意識が混濁する
・呼吸音が大きくなる
・手足が冷たくなる
・匂いが変化する
・寝ている時間が長くなる
人によって感じ方はさまざまですが、体臭が飴を煮詰めたような甘い匂いに変化するともいわれています。死期が近づくと呼吸音がゴロゴロした音になる「死前喘鳴」が現れるのも大きな特徴です。
必ずしもこの特徴が現れるわけではありませんが、覚えておくと万が一のときでも落ち着いて対応できるでしょう。
亡くなる前に現れる精神的な特徴の例は、以下のとおりです。
・感謝を口にする
・手のひらをじっと見る
・普段しないような行動をする
・辻褄が合わない発言をする
手のひらをじっと見つめる行動は、まるで手鏡を覗き込むようなことから「手鏡現象」ともいわれています。また、落ち着きがなくなったり急に表情が穏やかになったりすることもあります。
これらはすべての人に共通する特徴ではありません。しかし、どのようなことが起きるのかを理解しておくことで余命と向き合い、看取るための心構えができるでしょう。
寝たきりになったときに、家族にできることは大きくわけて3つあります。身体的ケアと精神的ケアのほかに、医療や介護サービスのサポートについても紹介します。
身体的なケアとは、主に介護を通してできることを指します。
具体的には以下のような内容です。
・定期的に体位を変える
・皮膚を清潔に保つ
・栄養管理をおこなう
寝たきりになると自分では体を動かせず、床ずれが起きやすくなります。特に、かかとやお尻など圧迫されやすい場所に発生するため、2時間~3時間ごとの体位変換が必要です。体圧を分散させるために、エアマットレスやジェルマットレスなどを用いるのも有効な手段でしょう。
タオルで清拭をしたり、口腔ケアをしたりして全身を清潔に保ちます。ほかにも、バランスのとれた食事や排泄介助など、日常生活のほとんどをケアする必要があります。これらすべてを家族で担うのは大変なので、介護サービスなどを積極的に利用してもよいでしょう。
精神的なケアは以下のとおりです。
・コミュニケーションを取る
・家族との時間を過ごす
・マッサージをする
精神的なケアで一番大切なのはコミュニケーションです。感謝の言葉を伝えたり、思い出話をしたりと、積極的にコミュニケーションを取るとよいでしょう。手を握ったり、足をマッサージしたりしながら話しかけるのも効果的です。
ほかにも、好きな音楽を流したり、家族で一緒に過ごしたりして、残された時間を有意義なものにするとよいでしょう。
寝たきりの人をケアする場合、介護サービスや訪問看護を積極的に利用するのもおすすめです。すべてを自分たちだけでおこなおうとすると、家族に大きな負担がかかってしまいます。最期までしっかり寄り添うためにも、さまざまなサービスを活用しましょう。
自宅で介護をおこなう場合、訪問介護やリハビリテーションを利用できます。プロの介護者に頼ることで、家族の負担を軽減できます。また、本人の状態に応じて訪問入浴やデイサービスの利用も検討してみましょう。
家族自身が精神的な負担を感じている場合は、地域の介護者支援団体や家族会など、同じ悩みをもつ人たちと交流するのも有効です。ケアマネジャーや自治体に相談することで、不安を解消できるかもしれません。
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両親や祖父母が高齢で寝たきりになったとき、家族は何をすべきなのでしょうか。ここからは、家族が事前に準備できることを紹介します。
まず、本人に延命治療の意思があるのか確認しておくとよいでしょう。延命治療とは、生命維持が難しい状況になった場合、医療措置により一時的に命をつなぎとめることです。具体的には、以下のような医療を指します。
・人工呼吸器の装着
・人工栄養法
・人工透析療法
本人と意思疎通ができなくなったときに、延命治療をするかどうかを決めるのは家族です。万が一のときに困らないように、本人と家族の間で意見を統一しておくことが大切です。延命治療に関する意思を「事前指示書」として残しておくのがおすすめです。
可能であれば、寝たきりになる前に遺言書を作成しておくとよいでしょう。遺言書があると、財産の分配や医療に関する希望を明確に伝えられるので、家族間のトラブル防止につながります。
何を書けばよいかわからないときは、弁護士や行政書士といった専門家に相談してもよいでしょう。また、公証人が作成する「公正証書遺言」は信頼性が高く、法的にも有効です。
遺言書を作成する際は、自分の意思を伝える「遺言能力」が必要となります。遺言能力がないと判断されると遺言書の効力はなくなるので、意思疎通ができるうちに作成しておくのが賢明です。
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本人の意思が明確なうちに、葬儀の希望を確認しておくとよいでしょう。具体的には、以下の内容を決めておくと安心です。
・葬儀の場所
・葬儀形式
・葬儀でこだわりたい点
・連絡をしてほしい親族や友人
事前にいくつかの葬儀社に見積もりを依頼したり、生前相談をしたりするのもよいでしょう。早いうちから相談しておくことで、本人の希望を叶えられるほか、家族もいざというときスムーズに対応できます。お別れの時間をゆっくり過ごせるように、前向きな気持ちで葬儀について考えることが大切です。
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90歳で寝たきりの状態になると、本人と家族にとって多くの課題が生じます。しかし、適切なケアとサポートをすることで、生活の質が向上します。体位交換や栄養管理、リハビリなどの身体的ケアに加えて、専門家の助けを借りながら精神的なサポートもおこなうとよいでしょう。
また、事前に葬儀の準備を進めることで家族の負担を軽減できます。家族全員が協力して、よりよい生活環境を整えながら最期の時間を過ごせるようにしましょう。
「小さなお葬式」では、寝たきりや余命についてだけでなく、葬儀・法要全般に関する疑問を承っております。直前で迷われることのないよう、気になることがある方はお気軽にご相談ください。24時間365日、専門スタッフが丁寧に対応させていただきます。
自筆証書遺言は押印がなければ無効だと判断されてしまうので注意しましょう。ホゥ。