遺言書の中でも安心性を確保しやすく、さまざまなリスクを軽減できる方法が「公正証書遺言」です。実際に選択するケースも多く見られますが、具体的な仕組みや必要書類について知らない方もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、公正証書遺言に関する情報を徹底的に解説します。メリット・デメリットを踏まえた上で検討できるため、実行に迷っている方も参考にできるでしょう。作成後の変更や、不服申し立てなどの注意点もご紹介します。
<この記事の要点>
・公正証書遺言は第三者の偽造や、保管中の紛失などのリスクが少ないのがメリット
・公正証書遺言を作成する費用は相続財産の価額により異なり、100万円以下の場合は5,000円
・公正証書遺言を変更したい場合、再度公証人と証人に作り直してもらう必要がある
こんな人におすすめ
公正証書遺言について知りたい方
公正証書遺言のメリットやデメリットを知りたい方
公正証書遺言の費用や作成方法が知りたい方
「公正証書遺言」は、遺言書を作成する選択肢としては比較的実行されやすい形式です。遺言書としての働きは他の方法と同様ですが、作成の流れや法的なルールに違いがあります。まずは根本的な仕組みを理解し、効力の範囲や有効期限に関する規定を把握しておきましょう。3つの項目に分けて、重要な知識を詳しく解説します。
遺言者の意思や希望を書面に反映し、公文書として承認された物が「公正証書遺言」です。作成するためには、あらかじめ定められた法律に則った形式を具現化する必要があります。遺言者の自筆ではなく、依頼した公証人によって作成される方法です。
手続きは公証役場で行い、公証人が内容を確認しながら記入を進めます。完成した遺言書は、そのまま公証役場に保管するのが原則的な流れです。相続が発生したとき、相続人が開示を求めることで効力を発揮します。
一般的な遺言書(普通方式)に挙げられるのは、3つのパターンです。公正証書遺言を含め、以下のような相違点があります。
公正証書遺言 | 自筆証書遺言 | 秘密証書遺言 | |
執筆する人 | 公証人 | 遺言者 | 制限なし |
保管場所 | 公証役場 | 自由 | 自由 |
開封 | 公証役場に連絡 | 原則、検認を終えてから |
上記のうち、自筆での作成が原則となっているのは「自筆証書遺言」です。「秘密証書遺言」は、遺言書の存在を認めてもらう目的があります。公正証書遺言と他2種類の違いは、作成者と保管場所にあるといえるでしょう。
遺言書として効力を有する内容は、公正証書遺言などの種類を問わず同様です。代表的には以下のようなものがあります。
・財産を相続させる対象や割合
・相続人の廃除
・財産分割の禁止
・保険金受取人の変更
・隠し子の認知
遺言者本人の考えを尊重するため、書面に反映するのが遺言書の目的です。本来相続人にならない方であっても、遺言書に記載があれば対象に含まれます。
また、遺言書そのものには有効期限が設けられていません。亡くなってから相続が完了した後に発見された場合でも、遺言書の内容が適切であれば優先的に扱われるルールです。
公正証書遺言は、他の方法に比べてメリットを得やすい選択肢ともいえます。第三者によって偽造されたり、保管中に紛失したりといったリスクが少ないためです。遺言書の信頼性を高められるため、家族への負担軽減にもつながるでしょう。5つの観点から、公正証書遺言で得られるメリットをご紹介します。
信頼性を確保しやすいのは、公正証書遺言特有のメリットです。基礎的な内容を決めるのは遺言者本人ですが、完成させるためには公証人を介す必要があります。特定の日に証人が立ち会って入念に進めるため、偽造されるリスクはほとんどありません。公証役場で保管することにより、作成後に改変される結果も防げます。
遺言書が完成した後は、持ち帰らず公証役場で保管するまでが一連の流れです。保管される期間に明確な制限はなく、相続人から開示を求められるまで継続保管されます。遺言者自身で保管する必要がないため、紛失のリスクもほとんどないと考えて良いでしょう。
自筆証書遺言などで作成した場合、安全に保管できる場所を選ぶ過程が重要となります。保管場所が分からず、発見されないまま相続を終えるかもしれません。公正証書遺言であれば簡単な手続きで開示できるため、保管や探す手間も省けます。
遺言書の作成時に懸念されるのは、内容の不備による無効化です。一度存在が認められた遺言書でも、不適切な内容があれば有効にならないケースもあります。公正証書遺言の場合は公証人が作成するため、法的な知識を基に反映可能です。
ただし、場合によっては無効となる可能性も理解しておきましょう。自筆の遺言書に比べるとリスクは軽減できますが、遺留分の侵害によって不本意な結果を招くこともあります。具体的な内容を決める際は、専門家に相談できると安心です。
公証人によって作成された遺言書は、開封の際に検認を行う必要がありません。作成の段階で、すでに信ぴょう性が証明されているためです。他の方法では、家庭裁判所に遺言書を持参して開封してもらう過程が必要となります。相続内容を確認する目的とした工程が減るため、相続人の負担軽減につながるメリットともいえるでしょう。
遺言者自らが執筆する必要がなく、公証人に任せられる点もメリットのひとつです。自筆の場合は記入ミスも懸念されますが、具体的な内容が決まっている状態であればスムーズに完成まで進められます。
執筆そのものの行為が困難な方や、コミュニケーションが難しい場合にも作成が可能です。遺言者の健康状態や環境を問わず、対象を限定しにくい点も魅力的な要素といえるでしょう。意思表示に問題がなければ、遺言者としての権利があります。
現在公正証書遺言の作成を検討している方は、メリットだけでなくデメリットも理解しておきましょう。他の方法に比べて挙げられやすいのは、手数料の高さです。特別なコストを必要としない自筆証書遺言に対し、5,000円以上の出費を要します。
また、適切な手続きを進めるためには証人が必要です。未成年や4親等以内の親族を避け、要件を満たす証人2人の立ち合いが条件となっています。極端に資金が少ない方や、証人を立てるのが困難な状況にある方は負担に感じるかもしれません。
コスト面のデメリットはあるものの、入念な事前準備によって解消できる可能性も高いといえるでしょう。
遺言書の作成を完了させるまでには、複数の段階で費用を負担します。作成そのものにかかる料金以外に、証人や専門家といった機関への依頼料も必要です。財産の価額によっては高額になる可能性もあるため、具体的な金額を把握した上で資金を備えておきましょう。公正証書遺言完成までにかかるコストの内訳を解説します。
コストの大部分を占めるのが、公正証書遺言を作成するための手数料です。相続させる財産の価額によって、以下のような区分に定められています。
価額 | 手数料 |
100万円以下 | 5,000円 |
100万円超~200万円 | 7,000円 |
200万円超~500万円 | 1万1,000円 |
500万円超~1,000万円 | 1万7,000円 |
1,000万円超~3,000万円 | 2万3,000円 |
3,000万円超~5,000円 | 2万9,000円 |
5,000万円声~1億円 | 4万3,000円 |
1億円超~3億円 | 4万3,000円+超過額5,000万円までごとに1万3,000円を加算した額 |
1億円超となる場合は計算が複雑になるため、申請の前に予測できると安心です。また、提出書類を獲得するために以下のような手数料も要します。
・印鑑証明書
・戸籍謄本
・住民票
・登記簿謄本(不動産を相続させる場合)
・固定資産評価証明書(不動産を相続させる場合)
ひとつの書類にかかる手数料は数百円程度ですが、数が多いほど増額する点を把握しておきましょう。財産の価額が100万円以下であれば7,000円程度、1,500万円であれば2万5,000円程度が総額の目安となります。
周囲に証人を頼める人がいない場合、別途契約して2人分を確保しましょう。遺言書作成の手数料とは異なり、依頼先によって金額が変動します。また、以下のようにパターンで異なるケースがほとんどです。
・遺言者が1人
・遺言者が2人(夫婦で同時に依頼する場合など)
・出張を依頼する
大まかな相場としては、5,000円~1万円の価格帯が多く見られます。出張を依頼する場合はエリアも影響するため、契約前に確認しておくと良いでしょう。
法的知識に不安がある方や、原案を考えるのが苦手な方は専門家へ依頼する方法もあります。依頼先として挙げられるのは以下の3パターンです。
・弁護士
・司法書士
・行政書士
実際に求められる費用は、依頼先や内容によって大幅に変動します。原案のみであれば数万円程度に収まりますが、立ち合いや書類収集も含めると増額するでしょう。依頼料全体では、10万円以上の資金を必要とするケースもあります。契約の際は、細かい内訳も明確にした上で決められると安心です。
遺言書を適切なかたちで作成するためには、あらかじめ書類を備えておく必要があります。取得までに時間がかかる物もあるため、なるべく早い段階から準備を始めましょう。公証人に作成を一任せず、内容を検討して原案を完成させる過程も重要です。ここからは、公正証書遺言を作成するための具体的な流れ・ポイントを解説します。
スムーズな流れで完成まで進めるためには、複数種類の書類が必要です。遺言書の内容によって提出する物も変わるため、以下を参考に準備を行いましょう。
遺言者本人の必要書類 | ・実印と印鑑証明書 ・運転免許証などの本人確認書類 |
相続人との関係性が分かる書類 | ・戸籍謄本または戸籍全部事項証明書 ・相続人の戸籍謄本 |
証人に関する書類と情報 | ・本人の氏名や住所、生年月日 ・保険証などの本人確認書類 ・印鑑(認印可) |
相続人以外に遺贈する場合の書類 | ・遺贈する方の住民票または資格証明書 |
不動産を相続させる場合 | ・登記簿謄本 ・固定資産評価証明書 |
遺言執行人を指定する場合 | ・本人の住民票の写し |
戸籍謄本や登記簿謄本といった書類は、所定の機関で交付手続きを行う必要があります。休日中の申請を受け付けていない場合もあるため、直前になって焦ることのないよう進められると安心です。
場合によっては、上記以外の書類提出を求められる可能性もあります。公証人に依頼した段階で提出書類を尋ね、ひとつひとつそろえていきましょう。
公正証書遺言の作成作業は、公証役場への問い合わせからスタートします。原案を送付するなどしてチェックを依頼し、追加・修正を求められたものは対応しましょう。このときに提出書類を尋ね、原案を作成しながら書類収集を進めます。
本格的に作成する準備が整った後は、公証役場に連絡して作業日程を決定しましょう。公証人だけでなく、証人2人のスケジュールも考慮する必要があります。当日は、4人がそろってから作成する流れです。
原案を基に、遺言の内容を口述します。具体的な構成は公証人が調整するため、厳密なルールに則る必要はありません。完成した遺言書を証人と遺言者が読み聞かせ、署名・押印をして終了です。最後は公証人が署名・押印し、公正証書遺言として保管されます。
公正証書遺言は、遺言者の好きなタイミングで自由に作成できるものではありません。提出書類だけでなく、具体的な内容を決める必要があります。財産の状況を把握し、「誰にどのくらい相続させるか」をメモしておきましょう。
公証人の役割は、相談やアドバイスの対応ではない点にも理解が必要です。相続の内容について相談したい場合は、弁護士などの専門家に問い合わせると良いでしょう。原案に関するアドバイスを求めることで、作成当日の作業も進めやすくなります。
公証人以外に確保する必要があるのは、2人の証人です。相続を予定している方や、血縁関係にある方には依頼できません。以下に該当する場合は証人として認められないため、依頼できる人を決めておきましょう。
・未成年者
・4親等以内の親族
・推定相続人や遺贈される方(受遺者)
・推定相続人・受遺者の配偶者と直系血族
・書記や使用人
・公証人の配偶者
上記に該当する場合、内容が適切であっても遺言書作成が進められません。判断に迷う場合は「相続に深く関係しているか」を基準にすると分かりやすくなるでしょう。不適切な証人を立てると、相続が発生したときに無効となる可能性もあります。
自分が亡くなった後の相続に不安があるとき、便利に働くのが「遺言執行人」に関する法律です。指定したい人の情報を記入しておくと、相続発生時の手続きを委任できます。以下のような場合におすすめです。
・遺言書の内容を実行してもらえるか分からない
・相続発生時、公証役場に問い合わせないかもしれない
・遺産分割協議などでトラブルにならないか不安
・スムーズに手続きを進めてほしい
遺言執行人を指定する上で、特別な規定は設けられていません。相続させる予定の親族でも、指定を希望する旨が確認できれば選任されます。法人も対象に含まれるため、個人への依頼が不安な方は専門家が集う業者を指定しても良いでしょう。
公証役場までの移動が困難な場合は、公証人に依頼して訪問してもらう方法もあります。作業場所までの交通費だけでなく、手数料に加算される費用や公証人の日当も必要です。本来の費用よりも高額になるため、出張依頼を予定している方は加算分も考慮しておきましょう。また、出張の場合は依頼する公証役場も管轄内に限定されます。
一度遺言書として認められた書類も、変更がある場合は変更・撤回の手続きが可能です。公正証書遺言の場合、再度公証人と証人に依頼して作り直してもらう必要があります。自宅に保管している書類はコピーとなるため、原本の修正が必要になる点を理解しておきましょう。
基本的な流れは、初回の作成時と大きく変わりません。変更点に関わる公的な情報が必要となるため、書類はあらかじめそろえておいた方が良いでしょう。
遺言書の種類を問わず、効力を持つのは日付が新しい物です。複数回変更して「現状の相続内容が分からない」といった事態にならないよう、作成日時も明確に把握しておきましょう。希望であれば、公正証書遺言以外の形式に変更することも可能です。
遺言者の明確な意思が確認できない場合、法律で定められる遺留分を優先させるケースがあります。相続発生時のトラブルとなる可能性もあるため、最優先事項に含まれない要素も理解できると安心です。
不本意な結果を招かないためには、早めの遺言書作成が重要ともいえるでしょう。遺言書を作成する前に注意したいポイントを2つご紹介します。
遺言書の内容を考える上で把握しておきたいのは、「全ての遺言が実行されるわけではない」という点です。相続人にとって不利な内容が見受けられた場合、法律に則った「遺留分」が優先的に実行されます。
例えば「配偶者と子ども2人のうち、配偶者にのみ相続させる」といったケースです。子どもの金銭的負担を増幅させる可能性があるため、遺留分を優先することでリスクを防ぎます。
なんらかの理由で相続させたくない場合は、遺言書に「相続廃除」を明記すると適用が可能です。記載が認められなければ遺留分の相続となるため、公証人にもしっかりと口述しましょう。正当な理由があれば、遺言者の権利として相続廃除が承認されます。
遺言書を作成するタイミングに迷っているのであれば、早い段階から実践に移すのがおすすめです。死亡原因として考えられるのは、寿命だけではありません。事故や病気など、想定外の事態に発展する可能性もあるためです。
特に、公正証書遺言の完成までには日数を要します。焦って不本意な結果に導くことのないよう、思い立ったときに準備を始められると安心です。考える時間を設けると、後に修正・撤回する手間も省けるでしょう。
相続人が「遺言は適切でない」と判断した場合、不服を申し立てて対応を求められます。訴えが認められると遺言は無効となるため、不服申し立てに関する知識も蓄えておきましょう。自分が相続人になったとき、自身の負担を軽減するきっかけになるかもしれません。ここからは、不服申し立てが成立するケースや遺言書の確認方法を解説します。
遺言の内容に明らかな不当が認められた場合、相続人の不服申し立てが可能です。代表的な例として、以下のようなケースが挙げられます。
・遺留分の侵害が認められる場合
・「意思能力がない」と考えられる場合
・作成時、遺言者が未成年であった場合
・証人が適切でなかった場合
遺留分侵害の他、遺言者の意思能力も重要な要素です。「認知症で十分な判断ができない」と判断された場合、遺言書全体の内容が無効となります。
作成時は認められた証人でも、後に不正が発覚すると無効化されるルールです。公証人を介した内容が全て実行できるわけではないため、法律に反する要素がないか細かくチェックしておきましょう。申し立てが認められた場合は、法定相続人に対する承継が実行されます。
相続人の間で解決できない場合、家庭裁判所に不服申し立ての申請が可能です。申立人の考えを明らかにした上で、遺言書を用いて調整を申し立てます。調停が不成立となった場合、地方裁判所にて訴訟を提起する流れです。
裁判所で遺言書の内容が認められた場合でも、遺留分の相続は申請できます。遺留分侵害に関する申し立てを行う場合は、相続が発生してから1年が経過するまでに実行するよう進めましょう。相続人同士の話し合いが長引くと期限が切れる可能性もあるため、ひとつひとつの段階を素早く済ませられるよう意識できると安心です。
公正証書遺言の存在が明らかでない場合は、日本公証人連合会の「遺言検索システム」を活用すると確認できます。1989年(平成元年)以降に作成された遺言書であれば、亡くなった時期に関係なく検索できます。
開示を求めるためには、戸籍謄本と本人確認書類が必要です。亡くなった方の遺言書が対象となるため、生前の確認はできません。管轄エリアを問わず検索が可能です。遺言書の保管場所が分からない場合、まずは検索システムを利用して状況を確認してみましょう。
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作成後に改変したい部分がある場合は、再度手続きを行うことで作り直しが可能です。一度で全てが確定されるものではないため、なるべく早い段階での作成が重要といえます。財産についてしっかり考え、相続人にとって負担の少ない環境を整えましょう。
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公正証書遺言とは?
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