日本人の平均寿命は年々延びており、それに伴い介護の需要も増加傾向にあります。介護現場では、車椅子からベッドへの移乗を行う際に転落や転倒のリスクがあったり、介護者が腰を痛めたりすることもあるでしょう。
この記事では、車椅子からベッドへの移乗介助について解説します。在宅で家族を介護している方に役立つ内容になっているので、ぜひ参考にしてください。
<この記事の要点>
・移乗(いじょう)とは乗り移る動作全般のことで、介護現場ではよくおこなわれる介助の一つ
・車椅子からベッドに移乗する際は、被介助者の状態に応じた手順で移乗させる
・スライディングボード(移動用の板)を使用すると、介助者と被介助者の負担を軽減できる
こんな人におすすめ
車椅子からベッドへの移乗介助を知りたい方
車椅子からベッドへの移乗介助の注意点を知りたい方
スライディングボード(移動用の板)を使った移乗介助を知りたい方
移乗(いじょう)とは、乗り移る動作全般のことを指します。たとえば、車椅子からベッド・食卓の椅子・浴槽やトイレなどに移動する際に必要で、介護現場ではよくおこなわれる介助の一つです。
日常的に車椅子を使って移動する方の場合は、移乗介助が必要となります。介護の専門家だけでなく、在宅で介護する家族にとっても必要な技術といえるでしょう。
車椅子に乗っている方をベッドへ移乗させる手順は、以下のとおりです。
1. 車椅子から被介助者を動かす準備をする
2. 被介助者に声をかける
3. 足の位置を調整する
4. 被介助者と身体を密着させる
在宅で移乗介助をする方は、参考にしてください。
まずは車椅子に乗っている被介助者を動かすための準備をします。フットレストから足を下ろして、車椅子のレッグサポートを外しましょう。
【フットレストから足を下ろす流れ】
1. 膝の裏に手首を入れて引っ掛けるようにする
2. 反対の手でかかとを持つ
3. 被介助者の足が浮いたら、ふくらはぎ付近を支えてフットレストを上げる
4. 足をゆっくり床に下ろす
5. 同じ手順でもう片方の足をフットレストから下ろす
被介助者の両足を床に下ろしたら、レバーを押しながらレッグサポートが開いた状態にします。なお、車椅子の種類によってはレッグサポートがついていないタイプもあります。
車椅子から被介助者を下ろす用意ができたら、移乗を始める前に声をかけましょう。被介助者のなかには認知症などの症状により状況をよく理解できていない方もいます。そのため、移乗の理由を説明するとよいでしょう。
たとえば、食事・入浴・トイレなど、移乗介助が必要な状況は多々あります。被介助者の身体に触れる必要があるので、マナーとして一声かけるようにしましょう。
車椅子から移乗させる際は、被介助者に両足を開いてもらい、介助者の足が入る空間を確保します。被介助者が足を動かしにくい場合は、膝の裏に腕を引っ掛けて移動させましょう。
介助者が動きやすい状況を整えたら、被介助者から見て正面の位置に軸足を置き、反対の足を後ろに伸ばします。軸となる足は右でも左でも構いません。人それぞれ利き足があるので、やりやすい方を選んでください。
被介助者の身体を持ち上げる際は、介護者の肩にあごを乗せるようにします。そのまま両脇から背中側に腕を入れ、手を組むか、肩を抱きかかえる姿勢をとりましょう。
このとき、被介助者が斜め上にお辞儀するような体勢にするとお尻が浮き、少ない力で移乗できます。身体を引き寄せつつ、横にスライドさせてベッドに移乗させましょう。
以上が車椅子からベッドへの移乗をする際の基本的な流れです。移乗は日常的に行う機会が多いため、やり方を知っておくと役に立ちます。
被介助者の状態により、移乗介助のやり方には違いがあります。ここからは、それぞれの状態に合わせた介助方法を紹介します。
1. 片麻痺がある場合
2. 一部介助の場合
3. 全介助の場合
在宅での介護の方法を知りたい方は参考にしてください。
片麻痺とは、病気やケガの後遺症で身体の半身に麻痺がある状態です。ここでは、被介助者の右半身に片麻痺があるケースを例に説明します。
まずは、麻痺のない左半身をベッドに向けて車椅子を停めましょう。介助者は右側に立ち、被介助者の身体を支えます。その状態で被介助者に左手をベッドにつけて立ち上がってもらい、身体を回転させてベッドに腰を下ろしたら完了です。
左半身に麻痺がある場合は、右手と右足を使っての移乗介助となります。右半身がベッドに対して並行になる位置に車椅子を設置し、先ほどと同じ手順で移乗を行いましょう。
「一部介助」とは、介助者の見守りや多少のサポートが必要な状態を指します。完全な自立は難しいものの、ある程度のことを自力で対応できる場合は一部介助に該当します。
一部介助の方の移乗では、なるべく本人に身体を動かしてもらいましょう。介助者は車椅子の反対側(被介助者から見て斜め前)に立ってください。被介助者に車椅子のアームを握ってもらい、移乗時の動線を確保するために十分な空間を確保します。
介助者はこのときに被介助者の身体を持ち上げず、自力で立ち上がるよう促します。被介助者の脇腹辺りを優しく支えながらベッドまで移動し、腰を下ろしてもらったら完了です。
日常生活全般において介護が必要な場合は「全介助」となります。サポートがあっても、自力で動けない状態です。
まず、被介護者に前傾姿勢をとってもらい、介助者が持ち上げやすい体勢を整えましょう。続いて乗り移る側の足を一歩前に出したら、介助者の足を被介助者の外側に置き、膝を内側に入れます。このとき、被介助者の腰がねじれないように、つま先は進行方向に向けてください。
被介護者の背中を引き寄せたら、介助者は腰を下ろして重心を下げます。姿勢を保ちつつ、ゆっくりと被介護者をベッドに座らせましょう。
車椅子からベッドへの移乗以外にも、被介助者の移動をサポートする場面はあります。ここでは、以下の2つを解説します。
1. 車椅子からトイレへの移乗
2. 入浴介助の手順
いずれも日常生活でよくある場面なので、介護に携わる方は参考にしてください。
車椅子に乗っている方がトイレを使用する場合、車椅子に対応しているトイレを探す必要があります。介助者が動けるスペースも含め、十分な広さがあるか確認しましょう。
便座に移乗しやすい位置に車椅子を停めたら、立ち上がる準備をしてもらいます。被介助者に浅く腰かけてもらい、足は床についた状態にしましょう。その体勢で被介助者にトイレの手すりを掴んでもらい、お尻が便座のある方向へ向くようにします。介助者がズボンや下着を下ろしたら被介助者に便所に座ってもらい、用を足し終わったら衣服を元に戻しましょう。最後に車椅子への移乗介助を行って終了です。
入浴は被介助者の身体に負担をかけるため、必ず健康状態を確認してから行いましょう。血圧・脈拍・体温を測定し、異常が見られた場合は入浴を避けてください。
秋から冬にかけては、ヒートショック対策として脱衣場・浴室を温めておく必要があります。お湯の温度にも気を配り、38℃~40℃くらいに調整しましょう。入浴中には身体を洗いつつ、皮膚に異常がないか確認すると健康チェックにもなります。
シャワーチェアを使う場合は座面にお湯をかけて温めて、手足からかけ湯をして全身を洗いましょう。浴槽につかる時間は5分くらいが適切とされています。入浴後は水分補給をして、体調に変化がないか確かめます。
車椅子を安全に使用するためには、メンテナンス以外にも注意すべき項目があります。たとえば、以下のような点に気を配りましょう。
1. 日常的に車椅子の点検を行う
2. 被介助者の正面に車椅子を置かない
3. フットレストを上げる
4. 腕の力だけに頼らない
5. 腰や関節に負担がかからないようにする
6. できる限り被介助者に身体を動かしてもらう
日頃から移乗介助をしている方は、参考にしてください。
車椅子の点検で確認すべき項目は、以下の表のとおりです。
【車椅子の点検箇所】 | |
タイヤ | ・十分な溝があるか ・変形やひび割れがないか |
ブレーキ | ・きちんと停止できるか ・調整が足りているか |
シート | ・破損、たるみ、傷がないか |
ネジ | ・緩みがないか |
ブレーキのワイヤー | ・サビ、ほつれ、緩みなどがないか ※制動用のブレーキがない場合を除く |
ハンドリム・車輪・キャスタ | ・固定が緩んでいないか ※ハンドリム・・・車輪の外側についている部分 |
車椅子本体の動作 | ・異音はないか ・まっすぐ進むか ・タイヤが地面についているか ・折りたたみできるか |
確認する部位が多いので、リストにまとめるとわかりやすいでしょう。
移乗介助では、被介助者の正面に車椅子を置かず、なるべく身体を動かさずに済む位置を選びます。正面から移乗させると、被介護者が立ち上がった際に身体の向きを変えなければならず、負担が大きくなります。
ベッドから車椅子への移乗介助では、ベッドに対して車椅子が並行になるようにしましょう。特に高齢者は立ち上がった際にバランスを崩しやすく、転倒につながる可能性があります。事故防止のために、車椅子の位置には気を配りましょう。
フットレストとは、折りたたみ式の足置き場です。移乗介助を行う際に被介護者が足を引っ掛けるおそれがあるため、フットレストを上げておくと安全を確保できます。
日常的に車椅子を使っている方は足の筋力が落ちやすく、ちょっとした障害物が原因でつまずくかもしれません。事故やケガにつながりそうな要素は事前に取り除きましょう。
腕の力だけで被介助者を移乗させると、介助者に負担がかかり体勢を崩しやすくなります。小柄な方でも身体の力が抜けた状態だと意外に重く感じるため、腕力だけでは支えきれません。大柄な方はさらに介助が難しく、道具を使ったり二人がかりで移乗させたりする必要があります。
在宅で介護している一般の方は、専門家から移乗介助のコツを教わる機会があればぜひ活用しましょう。
移乗介助を行う際は、被介助者の腰や関節にかかる負担を最小限にする必要があります。また、介助者も膝・腰を痛める可能性があるため、正しい介助方法を身につけましょう。
移乗介助では被介助者と身体を密着させ、なるべく隙間がないようにします。被介助者を引っ張るのではなく、支えながら移動させるのが移乗介助の基本です。介護の専門職でない方にとっては難しいかもしれませんが、覚えておくと役に立つポイントです。
自力で身体を動かせる方を移乗介助する場合は、全面的にサポートせず見守ることも重要です。横になっている時間が長い方は体力や筋力が低下しやすいため、残存機能を活かしてもらうように促します。
身体能力は使い続けることで維持されるため、被介助者の意思で動いてもらうよう心がけましょう。被介助者自身が体を動かすことで自立につながるだけでなく、健康寿命の延伸にも役立ちます。
スライディングボードとは、介護現場で使われる道具のことで、被介助者の身体を滑らせるように移動できます。ここからは、スライディングボードの使い方と使うメリットを紹介します。
スライディングボードは、木材やプラスチックなどで作られた移乗用の板です。主にベッドと車椅子の間を移動する際に使われており、座ったまま動けるよう表面が滑りやすく加工されているのが特徴です。
【スライディングボードの使い方】
1. ベッドと車椅子の隙間にボードを設置する
2. 被介助者のお尻が半分浮いた状態でボードに乗ってもらう
3. ベッドまたは車椅子に向けて身体をスライドさせる
上手く活用するコツは、高低差をつけることです。移乗する側を低くして、斜め下に滑らせるとスムーズに移動できます。
スライディングボードを使うメリットは、介助者・被介助者の双方にかかる負担を減らせる点です。
人の力で移乗介助する場合は、どうしても腕や足腰の力が必要になり、身体を痛める可能性があるでしょう。しかし、スライディングボードがあれば最小限の労力で移乗でき、転倒や転落のリスクも少なくなります。
人の力のみでの移乗に支障がある場合は、スライディングボードの使用をおすすめします。
最後に、ベッドから車椅子に移乗する際の方法を解説します。こちらも日常生活で頻繁に登場する場面なので、知っておくと役に立つでしょう。
1. ベッド脇に車椅子を設置する
2. 被介助者に身体を丸めてもらう
3. ベッドの脇まで水平移動してもらう
4. 被介助者の身体の向きを変える
5. ベッドに浅く腰かけてもらい、上体を斜め上に起き上がらせる
6. 移乗しやすいようベッドの高さを調整する
7. 車椅子の角度を確認し、移乗しやすくする
8. 被介助者の足の角度を調整する
9. 声をかけてから身体を持ち上げる
10. 被介助者の身体を支えながら車椅子へ移乗させる
11. お尻の位置を調整する
最後にフットレストを固定して、被介助者の両足を乗せたら終了です。
車椅子からベッドへの移乗は、介護現場でよく使われる技術のひとつです。おもに病院や介護施設で必要とされますが、在宅介護をしている方も移乗介助の方法を知っておくと役立つでしょう。
高齢で歩くのが難しい方を介護する場合、日頃から車椅子で外出することもあるでしょう。病院や買い物に行く際など、あらゆる場面でベッドと車椅子を行き来するため、家族も移乗介助の技術を習得する必要があるかもしれません。この記事を参考に、移乗介助の基本を学んでみてはいかがでしょうか。
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忌引き休暇は、実は労働基準法で定められた休暇ではありません。ホゥ。