2024年度の税制改正大綱(ぜいせいかいせいたいこう)が、2023年12月に発表されました。税制改正大綱とは、簡単にいうと「税制に関する法律改正の原案」です。この税制改正において「相続税と贈与税の一体化」が打ち出されるのではないかといわれていました。相続贈与が一体化することで、相続税対策としての暦年贈与ができなくなってしまうことが懸念されていたのです。
では、実際の税制改正はどのような内容だったのでしょうか。相続税を節税するためには、最新の知識を持っておく必要があります。そこでこの記事では、2024年度の税制改正が相続税や贈与税に与える影響について詳しく解説します。
<この記事の要点>
・住宅取得等資金の贈与税の非課税措置の期間が3年延長された
・相続税と贈与税の一体化により、贈与税の3年内加算が7年内加算に延長された
・相続税と贈与税の一体化により、相続時精算課税制度に年間110万円の基礎控除が新設された
こんな人におすすめ
2024年の相続税・贈与税の改正ポイントを知りたい方
相続税と贈与税の一体化について知りたい方
2024年度の税制改正大綱において、相続税・贈与税の改正内容はどのようなものだったのでしょうか。
実際に改正された「住宅取得等資金における贈与税の非課税措置の延長と縮小」と「財産債務調書制度の見直し」の2点について解説します。
「住宅取得等資金の贈与税の非課税措置」とは、父母や祖父母から子や孫に住宅の購入資金や増改築にかかる費用を贈与する際に適用される制度です。耐震等級や省エネ、バリアフリーなどの基準を満たす住宅であれば、1人あたり最大1,000万円が非課税になります。
2024年度税制改正によって、非課税枠の適用要件が厳しくなりました。どちらの非課税枠にも変更はありませんが、質の高い住宅は適用要件がより厳しくなっています。また、非課税措置の期間は3年延長されることがきまり、2026年12月31日までの適用となりました。
質の高い住宅の条件 | 一般住宅の非課税枠 | 質の高い住宅の非課税枠 |
税制改正前 (断熱等性能等級4以上又は一次エネルギー消費量等級4以上) |
最大500万円 | 最大1,000万円 |
税制改正後 (断熱等性能等級5以上かつ一次エネルギー消費量等級6以上) |
最大500万円 | 最大1,000万円 |
非課税措置の期間 | 2023年12月31日まで | 2026年12月31日まで |
内閣府『直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税』
「財産債務調書制度」とは、一定以上の所得や資産を持つ人にその保有財産と債務を記載した書類の提出を義務付けている制度です。
従来の制度では「所得合計金額が2,000万円以上且つ、総資産が3億円以上または1億円以上の有価証券を保有している」方にのみ提出義務がありました。
2022年度の改正で富裕層の資産への課税が強まり、2023年以降に「所得にかかわらず12月31日時点で総資産が10億円以上ある」方にも財産債務調書の提出が義務づけられました。所得に関する基準が設けられていないため、所得が0円でも総資産が10億円以上あれば提出する必要があります。
この制度の導入前は、高所得者の財産や債務状況を把握するために所得合計金額が2,000万円を超える場合のみ「財産及び債務の明細書」を確定申告書に添付する義務がありました。しかしながら、提出率が低かったり記入漏れが多かったりと制度の効力がないのが実情でした。そのため、2015年の税制改正で明細書の添付制度が廃止され、代わりに財産債務調書制度が施行されました。
2024年度の改正では、上記に加えて「その年の12月31日においてその価額の合計額が10億円以上の財産を有する居住者の方」という項目が新設されています。さらに、提出期限について改正前はその年の翌年の3月15日でしたが「その年の翌年の6月30日」に改正されました。
参考:財産債務調書及び国外財産調書のお知らせ
現行の財産債務調書制度では、書類を提出しなかったり記載に漏れがあったりした場合は罰則が課されるので注意しましょう。
2022年の税制改正では「相続税と贈与税の一体化」が注目されていました。そもそも「一体化」とはどのようなことを意味しているのでしょうか。
ここからは、相続税と贈与税の一体化が検討される背景と2024年度の税制改正の結果について解説します。
相続税と贈与税の一体化とは、相続で財産を移行させても、贈与で財産を移行させても、かかる税金の金額を同じにする税制改正のことです。2020年12月に発表された「2021年度税制改正大綱」において、一体化への検討を進めることが発表されました。
一体化が検討される背景には、相続税の節税対策として利用されている「暦年贈与」や「生前贈与の非課税枠」の存在があります。富裕層がこれらの制度を利用すると、贈与税がかからない範囲で遺産を分配することも可能です。その場合、両親の経済水準が永続的に子どもや孫に引き継がれることになるため、富裕層とその他の層の格差が固定されてしまうという意見があります。
「所有している資産には漏れなく課税をして、経済格差をなくす制度設計を目指す」という観点から、相続税と贈与税の一体化の検討が進められていました。
相続税と贈与税の一体化は、すでに2023年度の税制改正で決定しており、2024年1月1日から適用されています。
具体的には、暦年課税は3年内加算から7年内加算へ(2024年1月1日以降の贈与に適用)、7年内加算の適用対象者に変更はなく、相続時精算課税制度に110万円の非課税枠が新設されるなどの改正がありました。
参考:令和5年度相続税及び贈与税の税制改正のあらまし
税制改正により相続税と贈与税の一体化することで、具体的には何が変わるのでしょうか。
ここからは、贈与税の非課税措置が見直されることによって想定される制度の改定内容について解説します。
今回の改正により、相続税計算に加算する暦年課税贈与の加算期間等が見直されました。
改正前の制度では相続開始前3年以内の贈与を、相続税の計算に加算することとされていましたが、改正により相続開始前7年以内の贈与を相続税の計算に加算することになりました。
2024年の1月1日から新たに行う贈与については、7年内加算の対象になるため、2023年12月31日までに行った贈与は、改正前の3年内加算のルールが適応されます。
また、生前贈与を相続財産に加算する期間は、相続発生日が2028年には4年、2029年には5年というように段階的に延びていきます。7年間の加算期間に完全に移行するのは、2031年1月1日以降になります。
本来であれば贈与した時点で発生する税金(贈与税)を、死亡後に納めるよう調整できるのが「相続時精算課税」と呼ばれる制度です。これは、贈与税の納税時期を生前から死亡後に変更するための制度ともいえます。
適用可能な範囲は、親から子どもまたは祖父母から孫に贈与を行う場合です。血縁関係の違いや年齢によって対象外となるため、全ての家族に適用されるものではない点を理解しておきましょう。
改正前は相続時精算課税制度を選択した年以降のすべての贈与財産を相続財産に加算する必要がありました。しかし、今回の改正で基礎控除が新設されたことによって、年間110万円までの相続時精算課税贈与は相続財産に加算されないことになりました。
なお、年間110万円の基礎控除は、2,500万円の特別控除の対象外となるため、相続開始前7年以内に贈与があったとしても、相続時精算課税制度を選択していれば、年間110万円までは相続財産に加算されません。
2024年1月1日以降、相続時精算課税制度を選択した場合、年間110万円までの非課税枠が新設されるため、年間110万円までの贈与は非課税となります。さらに、将来相続が発生したときに非課税枠内で贈与した分は相続財産に足し戻さなくてもよいとされたので、年間110万円までは完全に非課税にすることが可能となりました。
2024年1月1日から暦年課税制度は7年内加算のルールが始まり、相続時精算課税制度には110万円の基礎控除が新設されました。
暦年課税を厳しくして相続時精算課税を優遇する理由は、国としては相続時精算課税制度を広く普及させたい意向があるからです。相続時精算課税制度を使った場合は年間110万円までの部分を除いて、贈与した財産はすべて相続財産に足し戻して相続税を計算します。
つまり、財産を贈与で渡しても、相続で渡しても年間110万円部分を除けば最終的な税負担は同じになります。これは、2023年度の税制改正の趣旨である、贈与税の過度な負担をなくして贈与を世の中に広めたいという「相続贈与一体化」の考え方そのものだといえるのではないでしょうか。
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相続税・贈与税を活用するためには、常に最新の情報を仕入れることが大切です。現行の制度と将来改定される可能性のある内容についてよく理解した上で、節税対策を行いましょう。
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